飽和炭化水素

アルケン

分子内に二重結合を1つ持つ炭化水素を〔 アルケン 〕という。エチレン系炭化水素またはオレフィンともいう。一般式は〔 CnH2n 〕で表され,〔 シクロアルカン 〕と構造異性体の関係になる。    

 
 
 

アルケンの命名

  炭素の数が同じアルカン名の語尾を-ane(アン)から-ene(エン)に変えて命名する(左下表)

 
 

C数が4以上のものは炭素原子の番号を二重結合が小さくなるように付け,二重結合の位置を示す。命名する際には,二重結合を含んだ最も長い炭素鎖を主鎖として命名する(右上)。

 

アルケンの異性体

  アルケンの異性体には,側鎖の位置,二重結合の位置とシス,トランスの異性体ができる。また,アルケンの異性体にはシクロアルカンが存在することを忘れずに。

 

例題 C4H8の分子式で表される化合物の異性体の構造と名称を答えよ。

 
 

<類題> C5H10の分子式で表される化合物の異性体はいくつあるか。  11

 

アルケンの製法

アルケンは工業的には,触媒の存在下で炭素数の大きなアルカン(ナフサなどという)を,熱分解して作る。このような操作をクラッキングという。

  CH3CH2CH2CH2CH3 → CH3CHCH2 + CH2CH2

  実験室では,例えばエチレンはエタノールに濃硫酸を加え,約170℃以上で加熱して発生させる。(濃硫酸の脱水作用

 
 

アルケンの反応

@付加反応

二重結合は単結合に比べ,構造的に歪みが大きい(無理な結合をしている)ので,二重結合うちの1本は,切れやすく,他の原子や原子団と結合しやすい。このように,二重結合に他の原子や原子団が結合する反応を〔 付加反応 〕という。

 
 

CH2CHCH3 + H2 → 〔 CH3CH3CH3 〕

CH2CHCH3 + Br2 → 〔 CH2BrCHBrCH3 〕

CH2CHCH3 + HCl → 〔 CH3CHClCH3 〕   

CH2ClCH2CH3はできない。Hはより多くのHが結合している炭素原子に付加する。(マルコフニコフ則)

A付加重合

エチレンやプロピレンは特定の条件下で多数の同じ分子どうしが付加反応を行い,ポリエチレンやポリプロピレンを生じる。このように,分子量の小さな分子が多数結合し,分子量の大きな分子を作る反応を〔 重合 〕といい,特に付加反応によって進む重合を〔 付加重合 〕という。

 例  n CH2CH2 → 〔 [CH2CH2]n 〕ポリエチレン 
                                (
CH2CH2〕が多数結合すると考える

n CH2CHCH3  → 〔 [CH2CH(CH3)]n 〕ポリプロピレン 
                                (
CH2CH(CH3)〕が多数結合すると考える 

 n CH2CHCl  →  〔 [CH2CHCl]n 〕ポリ塩化ビニル 
                                (
〔 CH2CHCl− 〕が多数結合すると考える。

                                (塩化ビニル,CH2CH−:ビニル基 

B酸化反応

アルケンをオゾン(O3)や過マンガン酸カリウム(KMnO4)によって酸化すると,二重結合が開裂して,そこにO原子が入った化合物ができる。オゾンで酸化した場合は,アルデヒド(アルデヒド基−CHOをもつ化合物)やケトン(ケトン基−CO−をもつ化合物)が生成する。過マンガン酸カリウムの場合は,アルデヒドはさらに酸化されてカルボン酸(−COOHをもつ化合物)になる。下の生成物ABの構造からもとのアルケンの構造を決定することができる。

 
 

【アルキン】

炭素原子間に三重結合を1つ持つ鎖式炭化水素を〔 アルキン 〕またはアセチレン系炭化水素という。一般式は〔 CnH2n2 〕で表せる。炭素数の同じアルカンの名前の語尾を-ane(アン)から-yne(イン)に変える。基本的にアルケンと同様の方法で命名できる。

 
 

アセチレンの製法と反応

アセチレンは〔 カーバイド(炭化カルシウム)〕に〔 〕を反応させて作る。  

〔 CaC2 + 2H2O → Ca(OH)2 + CHCH 

アルキンは不飽和結合(三重結合)を持つため,アルケンと同様に〔 付加反応 〕をして二重結合をもった化合物になる。以下にアセチレンの反応を考える。

@水素との反応   CHCH + H2 → 〔 CH2CH2 〕

Aハロゲン(F2,Cl2,Br2,I2)との反応  CHCH + Cl2 → 〔 CHClCHCl 〕1,2−ジクロロエチレン

B塩化水素との反応   CHCH + HCl → 〔 CH2CHCl 〕塩化ビニル

C酢酸との反応  CHCH + CH3COOH → 〔 CH2CHOCOCH3 CH3COOCHCH3 酢酸ビニル

Dシアン化水素(HCN)との反応   CHCH + HCN → 〔 CH2CHCN 〕アクリロニトリル

E水との反応  CHCH + H2O → 〔 CH3CHO 〕アセトアルデヒド

 
 
 

【シクロアルケン】

環状のアルケン(二重結合を1つ持つ環状の炭化水素)。一般式CnH2n-2で表され,アルキンと異性体の関係にある。性質はアルケンと同様に付加反応をおこす。

 
 
 

例題 次の文を読み,下の各問いに答えよ。

あるアルケンAに臭素を反応させたところ,もとのアルケンAの約3.3倍の分子量をもつ生成物が得られた。また,このアルケンに水素を反応させると,アルカンBが生成した。

(1) アルケンAの分子式における炭素数はいくらか。 H1.0C12Br80

(2) この反応で生じたアルカンBとして考えられる構造式は何種類か。

 

(1) アルケンなのでCnH2nとおくと,Br2を付加するとCnH2n + Br2 → CnH2nBr2となる。アルケンAの分子量をnを用いて表すと,12n2n14nまた,生成物の分子量は12n2n16014n160となる。生成物の分子量は,Aの分子量の3.3倍なので(14n160)14n 3.3より, n4.965

(2) Aに水素を付加すると,C5H10 + H2 → C5H12となる。生成するアルカンC5H12の異性体は次の3種が考えられる。この3種のうちBの構造は,二重結合を入れることができないのでアルケンの水素付加によって生成することはない。よって,BはBの可能性がない。したがってBの構造として考えられるのは2種である。

 
 

例題

分子式C4H8で示されるアルケン4種類がある。これらをADとし,それぞれの構造を決定するため,次の実験T,Uを行った。アルケンABと化合物XYの構造式を記せ。

T アルケンADに水素を付加させると,アルケンACDからは化合物Xが生成し,アルケンBからは化合物Yが生成した。

U アルケンADをそれぞれオゾン分解(下図)したところ,次の結果が得られた。

  (a) アルケンBからはケトン(RCOR’)

 (b) アルケンABからホルムアルデヒドHCHOが生成した。

 (c) アルケンCDからアセトアルデヒドCH3CHOが生成した。

 
 
 

4種類のアルケンは,下の@〜Cである。@〜Cに水素を付加すると,Xが3つYが1つできることから,AがBであることが分かる。のこり(@,B,C)のオゾン分解でHCHOができるのは,@,CH3CHOができるのはBとCなので,@がAであることが分かる。

解答 A CH2CHCH2CH3 B CH2C(CH3)CH3 X CH3CH2CH2CH3 Y CH3CH(CH3)CH3